« 空性の喩え(2)自性空の側面から | トップページ | 空性の喩え(3)縁起の側面から »

2007年12月21日

NHK「にっぽん 心の仏像」を見て

 SNS仏教談話ネットワークのコミュニティに投稿したNHK「にっぽん 心の仏像」の記事のほんの一部を以下に公開する。12月24日にBS2でさらに一挙再放送をする予定なので、今回見逃した方も是非どうぞ。といっても6時間ほとんどぶっ続けで見るのは飽きるかもしれない。録画して見ることをお勧めしたい。
 
(この番組は本になった。にっぽん心の仏像100選 上 (1) および にっぽん心の仏像100選 (下)


 いとうせいこう解説では、十一面観音の顔の数は十と一であり、十は十方すなわち全方位を意味するという。私見としては、たしかに方角的に四方八方と上下で十方とも考えられるが、むしろ心の全方位とみたい。十界(地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天界・声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界)と考えてもいい。仏界に関しては救いは無用だが、残りの九界について、さまざまな表情をつかった救いの手だてを表現しているのが十一面観音ではあるまいか。

 原田大二郎が定福寺の六地蔵菩薩を訪ねた。右側の三体はちょっとすました顔、左側の三体は笑っている。私の解釈では、おそらく智慧と慈悲を表わしているのだろう。原田大二郎は右側の三体に関して、「私を試しているのですか?」と問いかけていた。仏の智慧とは、心を如実に見る智慧であり、直視することによって自らの心が動揺したりはしない。だからとりすました表情でたたずむ。また、原田大二郎は、左の地蔵と向き合いながら、病弱だった息子のことを思い出して、「もっともっとたくさんやってあげられたのに、自分がなまけてほんの少ししかやってやれなかった」と涙を流していた。自分の意識の狭い範囲をはるかに越えて心の広大な領域に地蔵菩薩の慈悲が入ってくるので、その光のもとで自分のありようを見直して心が転換するわけである。これは大悲と呼ぶべきものであり、大乗仏教の“大”というのは、このような心の広大な領域を意味する。そういうものをすべて乗せて彼岸へ運んでいくのが大乗仏教である。

 お便り紹介で、橘寺(奈良)の如意輪観音坐像を見ていると、ジワッと自然に涙が溢れてきたというエピソードが紹介された。なるほどと思う。如意輪観音の、あのゆるい身体感覚。あれは眺めていると人の心にも伝染するのだろう。こころが自然とほぐされて、抑えられていた感情がこみあげて来たわけだ。

 興福寺(奈良)の天燈鬼・龍燈鬼立像は、なかなかユーモラスな像である。なかなか面白いものを見たと思った。鬼だから、劣等な心のありようを姿にした造形物だろう。これに関するお便り紹介では、これを見ると夫婦喧嘩をする気がなくなるというが、鬼の像という鏡を使ってまさしく犬も食わない自分の劣等な心を客観視して、それを笑ってしまうことによって煩悩に勝つという、非常に面白い方便があるものなのだなと感心した。

 番組では、妙高寺(新潟)の愛染明王像が紹介されていた。煩悩をそのまま悟りにする、あの忿怒の形相は何か。そもそも煩悩は苦しみをもたらす。にもかかわらず煩悩を全開にして自ら大きな苦しみを受け、それに必死で堪(こら)える。さらに、その煩悩の苦しみに耐えられなくなる自分を叱咤激励する。――それがあの顔ではなかろうか。まあ、熱湯につかりながら顔を真っ赤にして自らを励まし、我慢大会をしているような姿に見える。「煩悩こそ我」と思っていると、ああいうふうになるが、にもかかわらずそれだけの本能的な恵み・喜びもまた得られるのだろう。一切の悪を断って如来や菩薩のように平安な心に安住するという道もあれば、ときに襲って来る激しい苦しみに目を剥いて堪えつつ、感覚的な快楽の豊かさを享受するという道もある。日本的にいえば、どちらも仏教だろう。


 最後に一言。教養として仏像を見て歩くのではなく、出会いの体験として仏像を見て歩くという番組のスタンスは、私にとっての仏像イメージをだいぶ変えてくれた。

 
 
 
人気ブログランキング
↑多くの人に読んでもらいたいので、この記事が参考になった方はぜひクリックをお願いします。
 
 
 

招待制の仏教系SNS      分野別・難易度別に整理
SNS仏教談話ネットワーク  おすすめ仏教書

 
 
 


|

« 空性の喩え(2)自性空の側面から | トップページ | 空性の喩え(3)縁起の側面から »

仏像」カテゴリの記事

コメント

 『にっぽん心の仏像100選 上』には、私が当野石仏「わらい仏」を番組で紹介した部分も掲載されています。本の印刷が良くないという意見があって、その部分は残念ですが、とても参考になる本です。
 今年の2月には佼成出版社から挿絵本『おしゃかさま物語』も発行予定です。『にっぽん心の仏像100選』と合わせて、よろしくお願い申し上げます。
  日本画家・絵本画家 後藤 仁

投稿: 後藤 仁 | 2016年1月19日 11時08分

ホームページ拝見しました。
釈迦の顔が精悍でいいですね。
また、インドの蒸し暑い熱気も出ているように思います。

投稿: 金剛居士 | 2016年1月21日 19時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/68705/17436104

この記事へのトラックバック一覧です: NHK「にっぽん 心の仏像」を見て:

« 空性の喩え(2)自性空の側面から | トップページ | 空性の喩え(3)縁起の側面から »