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2008年10月 8日

『CD付き 般若心経【読む・聞く・書く】』を読んで


小松庸祐『CD付き 般若心経 読む・聞く・書く

 これは初級者にお薦めの本である。

 この本は何よりもCDが非常によいと思う。息継ぎの個所を明示しているので、全体がどのように区切られているのかが分かる。次にブロックごとに練習があり、これを何回か繰り返していると自然と憶えられるだろう。また、比較的ゆっくりしたスピードの唱和と普通に近いスピードの唱和とがある。

 般若心経は多くの宗派で読誦されており、探せば音源も多いと思うが、私のイメージとしては、真言宗の般若心経がいちばん優しい感じでいいと思う。反面、厳しさがない傾向があり、甘えの心を助長するような感じもあるが、習いはじめの人には敷居が低くていいのではないかと思う。これは、真言行者の三昧行が女性的な身体感覚に近いからだと思われるが、意識的に身を律する態度を忘れなければ、かなり行が進んでもこのような柔和な感じは保てるだろう。このCDとしては、ゆっくりとしたスピードでの唱和のほうの声質・音感を大切にして欲しいと思う。身を律する意識が保てれば、こちらのほうが般若心経の内容と同調(チューニング)しやすいのではないかと思う。

 著者が真言宗の僧侶なので、ときどき般若心経秘鍵に言及されているが、それほど難しくはない。般若心経の語句の解説も平易であり、基本をおさえるという意味ではこれで十分だろう。般若心経には同じ用語が繰り返し出てくるが、その用語の参照ページも示されているので、用語の意味がよくわからない場合はそのページも参照しながらじっくり意味を理解できる。

 この本はまた、写経の際の特殊な文字や書き順が取り上げられていたり、写経の作法が簡単に紹介されていたりして、ある程度読めるようになったら写経にも挑戦してみようかと思う人の格好の手引きにもなるのではないかと思う。 

 その他この本で非常にいいと思ったのは、仏師・向吉悠睦むこよしゆうぼくの仏像彫刻の写真である。おっとりとして穏やかな顔つきが私は非常に気に入った。真言宗的な仏の姿といってよいかもしれない。


 今回は、入門レベルの本にしてはすごく高度なことを言っているなと思ったところを一カ所だけ引用してコメントしておきたい。


 中国に弘覚こうかく大師というひじりがおられました。お弟子が一生懸命にお経を読まれているのを見て、「今何のお経を読んでおられる」と尋ねました。「はい。私は今『維摩経』を読誦いたしております」と弟子が答えました。
 すると弘覚大師は憮然と「なに『維摩経』だって。そんなお経の名なんぞ聞いているのではない。お前の念底ねんていの経を聞いているのだ」といわれました。念底というのは腹の底と一応解しておきますと、腹の底では今、どんなお経を読んでいるかということです。
 看経かんぎょう(経の黙読、研究)するのも、勤行するのも、この念底の経を読む姿勢でなくてはならないのです。経文中「或誦或聴こくていこくちょう」という語があります。「この経典を唱える者あるいはこの経典を聞く者、皆安楽悦意えっちに住し、仏の位に座す」という意味ですが、経を唱える姿勢はこの念底のいかんによるものです。
 道元禅師は、「冬草も見えぬ雪野の白鷺は をのが姿に身をかくしけり」と詠まれました。この意味は、枯草一つ見えない真白な雪景色のなかに一羽の白鷺がすっくと立っている。雪も白く鷺も白い。鷺は雪のなかに姿がとけ込んで、いるのかいないのかわからない、ということです。
 この無心の境界きょうがいがそのまま心経を読むときに求められます。

 口先だけの読経を戒めたものだが、まさしく心は別のことを考えていることがしばしばある。もし心ここにあらざれば、経文を見ずにそらんじて唱えている時には、きっと間違えたり何処まで唱えたか分からなくなっていることだろう。声では唱えていても心では唱えていないのである。ということは、ほとんど修行になっていない。

 しかし、ここではさらにもう一歩深いことを言っている。つまり経の内容と等しい心で読めと戒めているのである。道元禅師の歌は、まさしくそれを示している。この場合に当てはめるなら、雪野とは経に示された真如法界であり、白鷺とはそれを読む仏教徒である。真如法界と同じ姿になって経を読まなければならない。とくに観自在菩薩(観音菩薩)は白いイメージが強いと思うが、自らもまさしく心底から白身となって『般若心経』を読むべきなのである。まあこれには「理想的には」という限定がつくわけだが、実際にはできなくても目標としては忘れてはならないことだろう。

 
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