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2008年10月13日

『ほっとする良寛さんの般若心経』を読んで

 


加藤僖一『ほっとする良寛さんの般若心経

 これは、般若心経の意味を学びたいという人にはあまりお薦めではない。むしろ良寛の書を観賞したい人向きである。だから私としては新品を買うことをお薦めしたい。良寛の書は、細くて弱々しく見えるなかにも自由で恬淡として垢を離れた清々しい美しさがある。だから、よく観賞するためには他人の手垢がついていない本がいい。

 良寛筆の般若心経は、たしかに見ていてほっとする。間違いが多いからである。(笑) 写経では絶対に書き間違いをしてはいけないというプレッシャーが多いと思うし、なかには間違えると仏罰があるのではないかなどという心配までする人もいるかもしれないが、良寛筆の般若心経を見ていると、まあここまで誤字・脱字だらけでさらさらと気軽に書いてしまっていいものだろうかと思いたくもなる。だが、コピーもない時代ならば、多少字が汚くても、多少間違いがあっても、それによって仏縁を結ばせることのほうが重要だったのかもしれない。まあ、もらったほうも細かい間違いに気づけるはずもなかろう。(笑)

 この本には良寛筆の般若心経が二種類だけ掲載されており、その一つには間違いが多い。そこで、今回はまずその間違いをいちいち指摘していこう。

 たとえば、深のつくりが突になっていたりする。これは単純に漢字の間違いではないかと思う。また、確実に間違っている個所は「真実怖恐虚」のように線を引いて消して、正しい字(この場合は不)を補っている。しかし、「故知般若波羅蜜多」の蜜が脱けているにもかかわらず気づいていない。

 ところが、「度一切苦厄」の厄を危と書いてそのままにしているのは、単純に漢字の間違いとも思えない。ひょっとしたら「(心理的な)危うさがない」という意味で経文を理解していたかもしれないのだ。また、「無有恐怖」が苦怖になっているが、これもまた良寛の頭の中では“苦がない”という意味に解していた可能性がある。書を眺めることで、良寛にとっての般若心経に出会えるかもしれない。

 さて、手抜きに見えるような場所もある。たとえば、「色不異空空不異色」を「色不異空〃不異色」と書いている。そんな省略しちゃっていいの?という感じだ。もっとすごいのは、「謁諦 〃〃 波羅謁諦 波羅僧謁諦 菩提娑婆訶」である。真言くらい省略すんなよと言いたいところだが、ここにはちょっと面白い間違いがある。

 謁はエツであってカッとは読まない。しかし、これは謁見の謁であり、良寛がそこに「諦に謁する」という意味を含ませていたとしたら、それはすごい見識である。人は仏教の真理にまみえて悟るのだから。ついでに、「菩提娑婆訶」にも注目したい。莎婆訶なら一般にも使われている字だが、良寛が「娑婆(シャバ)訶」と書いたのは記憶違いとも考えられる。しかし、菩提娑婆で「悟ってこの世(娑婆世界)にいる」を含意しているのならば、それは無住処涅槃を言っているのであり、禅の行者の面目躍如といったところである。まあ、これらは私の深読みに過ぎないのかもしれないが。

 うっかりと間違えた箇所もある。「色即是空〃即是色」を書き忘れて、あとで行間に書き込んでいるのを見ると、「おいおい、般若心経のいちばん有名な句を忘れるのかよぉ!」とツッコミを入れたくなる。また、「無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法」の両句を前後逆にしていたりする。こちらは、無眼のほうに(初)という字を注記して句を入れ替えて読むことを指示しているようである。

 もうちょっとごちゃごちゃした修正になると、「説o咒曰」と修正して、oの部分に挿入すべき「説般若波羅蜜多咒」が経文の終わった後に書かれてあるが、正しくは即を消さずに即の前にoを付けるべきだった。見直しもどこまできちんとやっているんだか・・・。(^^ゞ

 本文には良寛の歌や句なども少しばかり載っている。

ぬすびとに盗り残されし窓の月
は、名句である。ぬすびとは、中に何も無いので布団くらいしか盗んでいけなかった。無一物の生活を続けた良寛にとっては、窓から見える月が最高の美的財産だったと言える。そしてこの句は、世俗の者には決して盗めないものがあることを教えてくれている。月は誰のものでもないではないかと反論されそうだが、あるがままに美しいものをそのまま受持できるのが仏教者である。


 あまりたくさん引用するのもどうかと思うので、有名な言葉を最後に挙げたい。

災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候
死ぬ時節には死ぬがよく候
逃げるから苦悩することになる。そのまま受け入れてしまえば、たしかに感覚的な苦しみはあるのかもしれないが、精神的に悩み苦しむことはなくなる。


 
 
 
 
 

 
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