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2008年10月 1日

松長有慶『空海 般若心経の秘密を読み解く』と金岡秀友『空海 般若心経秘鍵』を読んで


  

 空海の『般若心経秘鍵』の解説本としては、上記の二冊が代表的ではないかと思うが、私のお薦めは松長有慶『空海 般若心経の秘密を読み解く』のほうである。

 松長本のほうが解説が丁寧である。前3分の2は著作の解説であり、残りが本文の解説になっている。密教について詳しくない人でもとりあえず一通りの理解ができるようになっているのではないかと思う。

 金岡本も同様の構成になっているが、私としては最初の部分の空海についての解説が弁解めいていてあまり面白くなかった。ただし、古い文献の引用に関しては金岡本も参考になる部分はあった。研究者以外ではほとんど無用かと思われるが、たとえば、大綱序の「二教轍を殊にして」の二教について、注において覚鑁・頼瑜・杲宝・宥快・覚眼の文献を引用して各説を比較している。

 いずれの本も、漢文と読み下し文と(補足説明を含む)現代語訳と註釈があるので、本文を理解するのには不便はない。
 
 
 〔補足: 解説は無用という人は、『空海コレクション2』にも「般若心経秘鍵」が収められており、値段的にはこちらの方がお得である。〕
 
 
 
 空海の『般若心経秘鍵』で大いに参考になるのは、全体を「人法総通分」「分別諸乗分」「行人得益分」「総帰持明分」「秘蔵真言分」の五部分に分け、さらにその第二の分別諸乗分を「建・絶・相・二・一」の五つに分けている点だろう。後者の五区分は、それぞれ華厳宗・三論宗・法相宗・二乗(声聞と縁覚)・天台法華の教理に対応している。このように空海が解釈することで、般若心経の射程が全仏教に広がり、経文の意味も深みをもって捉えられることになったと言えるだろう。「色即是空 空即是色」という言葉も、単に唱えているだけと簡単に過ぎてしまうが、それが華厳宗の教理を代表するものだと認識していれば、その意味の深遠さを感じつつ唱えることができる。

 といっても、華厳宗の深遠なる教理をまったく知らないと話にならないし、また、「不生不滅……」という一節も、中論などを知らないとその深みはさっぱり分からないだろう。そのような意味でこの秘鍵を最大限に活用するためには、顕教についての深い理解を要求されることにもなる。

 ところで、『般若心経秘鍵』が密教の論書であるという意味では、やはり真言に最高の価値を置いていることになる。それは、上記の顕教すべての教理が「掲帝 掲帝……」という真言に凝縮されていることを意味する。「真言は不思議なり、観誦すれば無明を除かる。一字に千理を含み、即身に法如を證す。」(秘蔵真言分)などという密教の(効)能書きも、このような文脈の中で読めばある程度は理解できるのではないかと思う。さもないと真言は単なる“おまじない”に堕するだろうし、実際にも“おまじない”しか唱えていない真言僧もいるのではないかと思う。


 以上のようなヒントをもとに『般若心経秘鍵』を読んでみると、これもまた密教入門書として役立つのではなかろうか。


〈般若心経秘鍵〉この題目について古来二通りの解釈がある。その一は「般若心経の秘の鍵」つまり「般若心経の深旨を理解する鍵」の意味に受け取る。その二は「般若心経の秘鍵」つまり「般若心経について理解する秘密の鍵」の意味に捉える。前者は真言宗の古義において、後者は真言宗の新義において採用される。(松長本 p.83)

 私は古義を採用したい。般若心経には深み(すなわち秘密)があり、空海はそれを把握するための鍵を『般若心経秘鍵』で提示したからである。鍵そのものには秘密は隠されていない。それを使って般若心経の深みの扉を開くのである。


 
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