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2008年12月 7日

『般若心経の新しい読み方』を読んで

 


立川武蔵『般若心経の新しい読み方

 この本は、中級者向きのお薦め本である。般若心経の意味が一通り理解できている人にしかこの本はお薦めしない。

 般若心経というと漢文経典を思い起こす人がほとんどだろうが、この本はサンスクリット語も参照しながら経文の逐語解説をしている。サンスクリットでも般若心経を理解したいという人は、この本と合わせて涌井 和『サンスクリット入門 般若心経を梵語原典で読んでみる』(ブログ記事はこちら)を読むことをお薦めしたい。

 この本で特徴的なのは、インド・チベット・中国で作られた注釈をいろいろ紹介していることである。般若心経の基本的な意味を理解した人は、今度はそれらの注釈の微妙な違いを知ってみるといいだろう。

 大まかにいって、インドでは色即是空というときに「色は空しい」という側面に重点が置かれ、「空が色として現われる」という側面が軽く扱われているようである。チベットでもそれと似た傾向にあるといってよかろうが、それがとても論理的に注釈されていくことになる。中国でも多様な注釈がほどこされているが、やはり忘れてならないのは天台宗の「空・ちゅう」だろう。“仮”は空から生じた現象世界である。“中”というのは有でもなく無でもない実相である。

 この本では論じられていないが、日本に入ってくると“仮”である現象世界が即物的になっていく傾向にあり、この世がそのまま悟りの世界であるという方向に進んでいく傾向にあるのではないかと思われる。日本の論書をよく読めばそうではないのかもしれないが、“仮”とされる現象世界が、空に基づく実相世界としてではなく、現象世界の物象化に基づく分別世界に誤読される傾向にあったのではないかと思われる。

 私があえてこのような少しばかり歪曲した日本仏教史の認識を示しているのは、色即是空といったときに、「無」に重点をおく解釈と「有」に重点を置く解釈とがあることを指摘したいからである。般若心経にはたった一つの正しい意味しかないと考えるのは素人考えで、かりに真実は一つだとしても少なくともその真実にさまざまに解釈できる。同じものでもどこから見るかによって微妙な差異が出てくるようなものである。

 そんな意味で、いろいろな注釈のさわりの部分に触れて般若心経をさまざまな角度から考えてみるのも楽しいのではあるまいか。


 


 
 
 
 
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