« 『真言陀羅尼とお経 功徳・ご利益 事典』を読んで | トップページ | SNS「仏教談話ネットワーク」一部公開のお知らせ »

2009年9月22日

『全注・全訳 観音経事典』を読んで(追加あり)

 日本で最もポピュラーな経典といえば般若心経だが、その次にくるのは観音経ではないかと思う。多くの宗派で『妙法蓮華経』観世音菩薩普門品第二十五(これを一般に「観音経」と称している)のうち偈の部分を読誦している。
 
 観音経の解説本はいろいろあるし、他にも事典はあるのだが、これを取り上げるのは、サンスクリットの観音経をも参照しながら解説しているからである。中級者以上におすすめで★★★★☆といったところ。いかんせん値段が高い。(^^; 半額だったら文句無しにお薦め本なのだが。。。
 


 
 半分強の第I部は、観音経本文を20字くらいずつに区切ってそのよみがな付き漢文本文,その読み下し文,その現代語訳,対応箇所の梵文和訳を右頁に載せ、語句の解説を左頁に載せている。これは経典を正確・詳細に読み解くことを意図したものである。
 
 第II部の内容解説は、梵文原典も参照しながら語や文の構成などを解説している。たとえば、観世音菩薩や普門、無尽意菩薩という訳語をサンスクリットから説明している。また、無尽意菩薩の供養を最初は観音菩薩が受けなかったことに関しての理由が考察されている。漢文では単数複数がはっきりしないが、サンスクリットでは最初が単数形、二回目が複数形になっている。つまり自分ひとりで供養するのでは観音菩薩は受け容れず、衆生を代表して供養する(みんなで供養する)と観音菩薩は受け容れるという構造になっている。また、最初は使われている語も不適切だったのではないかとの見解が提示されている。その他、たとえば「仮使」がどこまでかかるかなど、漢文の構造も分析している。
 
 学問的には非常に興味深い解説ではあるのだが、それぞれがどのような象徴的・宗教的意味を持つのかなどは論じられていないので、信仰者にとってはちょっと不満が残るだろう。しかし、学問としては批判的であるべきであり、そこまで入り込んで解釈し主観的な自説を展開すべきではないのだから、これは仕方がない。
 
 資料編には、「漢・読・訳対照 観音経」「異訳対照 観音経」「梵・漢・和対照 観音経」「梵文和訳 観音経」がある。梵語の各語句の訳語は提示されていないので、『漢訳対照 梵和大辞典』などで調べたりする必要はあるが、ある程度サンスクリットが読める人ならば、漢文との対比ができて非常に興味深い。英語ができるなら「Sanskrit, Tamil and Pahlavi Dictionaries」という辞書サイトが便利である。
 
 なお、もっとマニアックな観音経愛好者(?)には、『法華経 下―梵漢和対照・現代語訳』(中級者以上★★★★★)もお薦めしておこう。こちらは梵文テキストの細かい違いまで注で明らかにしている。
 


 
 
 
 以下、いろいろ考えたことを書いておきたい。
 
 まず、漢訳語と対応梵語とが必ずしも一致していないという点が、私としてはちょっと気がかりである。そのうち詳しく検討してみたいと思っている。梵語の意味が純粋で正しくて漢訳にはさまざまな世俗の欲望という不純物がこびりついていると思っている私にとっては、このような吟味は信仰から欲望という不純物を取り除く作業にもなっている。特に観音経には、信者のお願いごとがいっぱいこびりついていて、それを唱えると却って欲望の海に放り込まれるのではないかとさえ思う。ま、これはかなり極端な言い方なのだが、経文のイメージの中からそのような不純物を取り除くのは、純粋な信仰にとって必要なのではないかと思うのである。

 観音経の最後には、「仏、是の普門品を説きたもう時、衆中の八万四千の衆生、皆な無等等の阿耨多羅三藐三菩提の心を発しき」とある。おそらくは修行のスタートラインに立ったという意味なのだろうが、ゴールがなんとなく見えたからこそスタートラインに立てたのではあるまいか。では、観音経に顕われたゴールとは何だろう。

 私が観音経を読む時には、いつも「妙音観世音 梵音海潮音 勝彼世間音」の箇所でホッとする。まあその前は、観世音菩薩がそこから救ってくれるという苦しみの世界が延々と述べられているのだから、そのようなイメージが全く出て来ないここでホッとするのも当然ではあるのだが、それにしてもここが最も上質なイメージを提供しているのではないかと思う。

 ついでにそのあとの経文を引いておくと、「是故須常念 念念勿生疑 観世音浄聖 於苦能死厄 能為作依怙 具一切功徳 慈眼視衆生 福聚海無量 是故応頂礼」である。観音経偈だけでも長すぎると思う人は、いま引用した部分だけでも唱えるといいと思う。言ってみれば、この部分が薬であり、その他の部分は効能書き(能書き)である。ま、この少し前の「真観清浄観……」あたりからでもいいと思うが、「諍訟経官処 怖畏軍陣中 念彼観音力 衆怨悉退散」が入ってしまうのがちと不快である。

 本当のところは分からなくても、とにかく美しい(徳性の)イメージをもつことが救いにつながってくるだろうし、そこがゴールだと思ってスタートラインに立つのが修行に役立つのではあるまいか。これはほとんど命懸けの障害物競走である。(笑) そして、その障害物を乗り越えて進むには、「念彼観音力」が最も有効な手段なのである。
 
 
 YouTubeにあった観音経偈を紹介しておく。これはおそらく曹洞宗の人が読誦しているのだろうと思う。
 

観音経(偈)Avalokiteśvara

 
 もしこの事典とともにCDを買うなら、偈だけでなく普門品すべてが入っているのを選ぶことをお薦めする。『般若心経・観音経』が聞いていていちばん心地よさそうである。『般若心経/観音経』は天台宗の読誦で、聞き取りやすいのではないかと思う。以上の二点は一部試聴ができるので自分の耳で確認してみるといい。『般若心経・観音経』は、大西良慶氏(清水寺元貫主)の解説「観音信仰について」がある。この解説はなかなか味があっていい。読経スピードは、最初のがやや速め、二番目のが中くらい、そしてこの清水寺のはゆっくりである。まだ慣れていない人や意味をじっくり考えながら読誦したい人は、三番目のがお薦めである。ただし、読経の声に好き嫌いがあるだろうからその点は自分で判断すべきである。「ついでだから理趣経も……」と思う人は『真言宗 -理趣経 心経 観音経』がおすすめ。
 
 
 
 
にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ 人気ブログランキング
↑多くの人に読んでもらいたいので、この記事が参考になった方はぜひクリックをお願いします。
 
 
 
招待制の仏教系SNS      分野別・難易度別に整理
SNS仏教談話ネットワーク  おすすめ仏教書
一部コミュニティを公開中                   

 
 
 


|

« 『真言陀羅尼とお経 功徳・ご利益 事典』を読んで | トップページ | SNS「仏教談話ネットワーク」一部公開のお知らせ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/68705/46280875

この記事へのトラックバック一覧です: 『全注・全訳 観音経事典』を読んで(追加あり):

« 『真言陀羅尼とお経 功徳・ご利益 事典』を読んで | トップページ | SNS「仏教談話ネットワーク」一部公開のお知らせ »