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2010年3月30日

『空海コレクション』を読んで

 いきなり空海の著作を読むのは難しいだろうが、ある程度は真言密教のことを知っている人ならば、座右に置いておきたい文庫本である。第一巻には「秘蔵宝鑰」と「弁顕密二教論」が収められており、第二巻には「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」「般若心経秘鍵」「請来目録」が収められている。各々に原文と語釈と現代語訳とがある。これだけ揃って二巻で3000円程度で読めるのだから、実にお得である。中級者~中上級者向き。おすすめ度★★★★★
 

 

 
 空海の著作を読むとなると、昔は『弘法大師空海全集』(筑摩書房)くらいしかなかったし、当時でも各巻1万円程度はしていた。それにハードカバーの分厚い立派な本で、持っているだけで手が疲れた。(^^; その点、この『空海コレクション』は重要な著作を収めているのに値段が安いし、軽いので寝ころがって読むこともできる。もちろん軽く読めるような代物ではないが、心も身体もリラックスさせて思考が自由にはたらく状態にしてじっくりと読むべき本である。
 
 第一巻の「秘蔵宝鑰」は「秘密曼荼羅十住心論」の要約であるとされ、心の宗教的深まりを十段階に分けて解説している。これは空海の教相判釈であり、動物的生活→道徳的生活→ヒンズー教→声聞→縁覚→法相宗→三論宗→天台宗→華厳宗→真言宗 という階層を提示している。
 
 私としては法相宗を不当に低く扱っているように思えるのだが、悟りの内容をどれだけ直接に表現しているかという観点からは妥当な序列なのかもしれない。唯識仏教のいう転識得智で獲得される大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智は、密教でいう如来の五智(唯識の四智に法界体性智が加わったもの)とほぼ同じであり、唯識仏教はその目標への到達方法をできるだけ世俗の言葉に寄り添って「唯だ識のみ」と説いたのである。分かりやすさから言えば、密教は意味不明のまじないと同列であろう。もちろん私は密教の象徴体系を否定しているのではなくて、顕教としての教理を踏まえた上でないと象徴が本来の働きをしなくなるし、密教オンリーでやろうとする人々はしばしばまじない師に堕するだろうと言いたいのである。
 
 「弁顕密二教論」については、やはり仏身説が注目される。冒頭では化身・応身(報身)・法身の三身説が立てられ、前二者が顕教に、後者が密教に当てられるが、引き続き第二の見解として変化身・他受用身・自受用身・自性身の四身説が提示され、前二者が顕教に、後二者が密教に当てられる。
 
 私としては後者の説が分かりやすいように思う。空海が大日如来の法身説法という場合には、むしろ自受用身による説法を意味しているのではあるまいか。なぜなら自性身は空性の真如そのもので、説法のしようがないからである。一方、自受用身ならば、真如を受用するという智のはたらき(?)が感応道交的にそのまま行者に伝わってしまうということがありうる。仏教一般では応身・報身・法身の三身説をとっているし、自受用身と他受用身が報身に相当するので、空海の三身説は私にはどうもしっくりこない。
 
 
 第二巻の「即身成仏義」は、この身と真如とが一体化するためのコスモロジーを説いていると言える。一体化するとは、あるがままを完全に受け入れるということであり、それが正覚者(仏陀)になるということである。これについて私見を書いていくと大論文になってしまうので、一つだけ・・・。(^^;
 
 即身成仏の偈頌の冒頭、「六大無礙にして常に瑜伽なり」にある六大は、地・水・火・風・空・識であるが、空海においてはこれは必ずしも自然現象の性質を指すものではない。それぞれ本不生・離言・清浄無垢塵・因業不可得・等虚空・我覚を意味する。つまり、ここで六大無礙といっても現象だけに眼を向けていては駄目なのであって、現象の背後にある(または内在している)不生不滅の空性に目を向けてそれと一体化(すわなち瑜伽)していなければならない。無礙なのは身と六つの空理との間だとも言えるが、空理が相互に無礙という意味もあるのだろう。いやあ、この瞑想を成就しただけでも成仏しそうだ。かように一つ一つの言葉をよくよく考えていくと、なかなか深い味わいがある。
 
 次に「声字実相義」については、声字すなわち言葉が真如であるという世界を提示する。これももちろんただの世俗の言葉が真如というのではなく、仏陀の教えが真如へ導くということを意味している。六塵(色・声・香・味・触・法)の各々に文字の相(すなわち言葉の意味)があるのだから、密教の場合は感覚される世界そのものが如来の言葉であるという境地がありうる。
 
 「吽字義」で押さえておきたいのは、梵字の字義だろう。これは種字について考察する際に便利である。
 
 「般若心経秘鍵」は、般若心経を密教の立場から解釈したものである。さらに詳しい解説がほしい人はこちらの本がよかろう。
 
 「請来目録」は、空海がいかに多くの重要な経典や法具を持ち帰ってきたかが一覧できる。これにざっと眼を通すだけで「空海は偉人だ・・・」と思うだろう。
 
 
 まあ、書きはじめるときりがないのでこの辺でやめておくが、さすがは空海だけあって一言一句にまで深い意味が隠されており、すぐにいろいろと考えを巡らしてみたくなる。これは繰り返し繰り返し読んでみたい本である。
 
 
 

 
 
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