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2013年3月22日

西原祐治『仏さまの三十二相』を読んで

 仏像にはさまざまな特徴が見られる。頭がパンチパーマみたいだったり、額の真ん中にほくろのようなものがあったり、手指の間に水掻きが付いていたり、足の裏に車輪の模様が描かれていたり、現在ではほとんど痕跡しか見られないが身体が黄金色に輝いていたり……。これらは仏だけがもつ特殊な三十二の相を表現したものである。


初心者~中級者向き。★★★★☆


 今回ご紹介する西原祐治『仏さまの三十二相―仏像のかたちにひそむメッセージ』は、それらの一つ一つの意味について紹介・解説した本である。著者が浄土真宗の僧侶だから、この解説では阿弥陀仏の誓願をもとに各相が意味づけられている。いわば、真宗の立場からの“読み”が書かれている本である。だからちょっと我田引水の感じがするし、話がだいぶ逸れていったような解説なのは否めない。しかしながら、三十二相を信仰という側面と結びつけている点は非常に重要であり、他宗の仏教徒は釈迦仏や薬師仏に関しても同じように信仰的側面から三十二相に思いを巡らせる必要があるだろう。

 かつてパソコン通信の時代に、仏教に関する某掲示板で、「仏教は坐禅を行ずるが本道であって、化け物みたいな仏像や菩薩像を拝むのは迷信だ。」という旨の発言を繰り返していた在家の禅宗信者がいた。観音には手が千本あったり、仏陀の舌は非常に大きくて顔を覆い隠してしまうくらいだからだと言う。まさしく即物的にしか考えられない人であった。(ま、方便としてのレトリックだったのかもしれないが。)

 千手観音に手が千本あるのは、もちろん多くの人々を救う働きを象徴的に示したものである。また、舌が広大なのは、この本によると「人々の生死の罪を除き、多くの仏に遇い、よい果を得るという特性」を意味しているそうだ。だが私としては、広範囲の人々(地獄から天界まで)に向けて舌を使う(=説法をする)、という意味の象徴的表現なのではないかと思う。このように象徴的なレベルで解釈していかないと、仏教の非常に大切な部分を取り逃がしてしまうだろう。

 ちなみに、手指に水掻きがあるのは、衆生が救いの手から漏れてしまわないためである。それを「如来は両生類か(蛙の一種か)!」と騒ぎ立てるのはじつに馬鹿げているし、あらゆる具体相を象徴的次元に置き換えて考える必要があろう。

 また、仏の身体が黄金色に輝いているというのは、仏が実際に物理的な光を放っているとはかぎらない。スポーツ選手であれアイドルであれ、時の人は“輝いて”見えるが物理的に光を放っているわけではない。このように、仏も“そのように感じられる”という文脈で捉えるのが正しいだろう。(霊的な光が見えると主張する人もいるだろうが、それを物理的に測定することはできないだろう。) 重要なのは、黄金色の光を荘重な威厳ある雰囲気として感じ取れるかどうかである。真宗の仏壇は金ピカでじつにケバケバしくて成り金趣味だと思うか、暗い心に希望の光を投げかけてくれていると思うかは、見る人次第である。人間離れした仏の姿に何を見いだすかは、ひとえにその人の感性にかかっている。

 この本によると、たとえば「この長い指(長指相)は、尊いものを敬い合掌して礼拝する心によって得られた」という。また、「跟が整っていること(足跟広平相)は、未来が磐石であること」を意味するという。私のようにいくら象徴的解釈を試みてみたところで、そんなことまでは仏典を繙かなければわからないだろう。その点ではちょっと役立つ本かなと思った。

 この本には、各相の特徴描写については出典が提示されているが、それぞれの意味については出典が記されていないのがちょっと残念である。私としては意味のほうを詳しく知りたいのだが、まあ啓蒙書としてはこのレベルまでなのだろう。

 龍樹作とされる『大智度論』(T1509_.25.0141b10以降)には、いろいろなタイプの布施をしたからこれら三十二相を得たいう因縁が書かれている。ということは、三十二相を見たら仏の布施の働き――それは自分にも向かっているはず――に思いを巡らせということなのである。

 仏のごとき人間離れした化け物になりたくない人は、くれぐれも布施行は控えてひたすら坐禅に邁進・精進することだ。(笑)



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